2013/11/14

エレンタールについて

 経鼻胃管でエレンタールを流し込むようになって1週間。経鼻胃管の挿入や注入用バックのセッティングにも慣れてきた。経鼻胃管を入れたままでも結構眠れることもわかった。寝返りも苦にならない。もともとあまり深い眠りにならないタイプなので、夜間には何度か目覚めてしまうが。

 夜間にエレンタール3パックを規定通り900ccとして溶解している。これを時速120ccで注入している。気になるのはポンプのモーター音が少しうるさいことと、経鼻胃管とバックからのチューブの接続部が外れないかどうか心配なこと。ここが外れると布団がエレンタールびたしになって、きっと悲惨なことになる。

 自分は医療者なので、比較的抵抗が少なくこの栄養療法を受け入れられた方だと思う。それでも少なからず抵抗はあった。やはり夜の自由が奪われるし、開始前後でかなり手間がかかる。一般の患者さんであれば、もっともっと受け入れが悪いであろう事は容易に予想できる。欧米ではなかなか普及しない治療に違いない。

 これも一つの実験だ。エレンタールを溶かす水の量と注入速度。これを自分の睡眠時間に合わせていかにベストに持って行くか。あまり水分の量が多くなると途中でトイレに行きたくなってしまう。水分の量を減らしすぎると浸透圧が高くなって下痢になりそう。その加減は人によって様々なはず。とりあえず3パック750ccとして7.5時間の睡眠時間に合わせたい。


2013/11/13

経管栄養

 手術後2週間近く経過し、やっと創部の痛みも軽度になってきた。院内を歩き回ることもできるようになり、8階の病室まで階段を登ってくることもできるようになった。階段はさすがに息が切れる。体力の低下は明らかで、ちょっと情けなくなるくらいだ。

 昨日はジェイメディカルの方がレンタルのポンプを持って来てくれた。非常に丁寧にポンプの使い方を教えてくれた。いよいよ自宅での経管栄養が始まるのだ、という実感がわいてきた。経鼻から胃管を自分で挿入する手技や、独特のにおいがするエレンタールを毎晩注入するのは、自分でもかなり抵抗があった。

 もし自分がもっと若くて、家族がいなければ、経管栄養は拒否したかも知れないと思う。きっと日中に経口で飲むようにトライして、おそらくその味の悪さで挫折するのではないだろうか。今、私が経管栄養を導入するモチベーションは、仕事への復帰と家族への責任感だ。何としてでも仕事を続けたいし、家族を養わなければならない。そのためにはやるべきことはきちんと全てやろうと思う。

 でも経管栄養は思ったより簡単で、もう胃管の挿入も、機械のセットも慣れた。胃管を入れたまま寝られるかどうかが心配であったが、それ程の違和感もなく眠れている。セッティングと後片付けがちょいと面倒な程度だ。ただこれも若者では夜の自由が無くなるので辛いだろうなと思う。幸か不幸かもはや夜の自由もあまり必要で無くなった。ゆっくりと栄養を摂取することにしよう。


2013/11/11

日々回復

 お陰様で術後の経過は良好だ。日毎に創部の痛みも少なくなり、身体の動きが良くなってきている。エレンタールも夜間に経鼻で3パック、日中経口で1パックを摂取し、合計1200kcalを摂取している。不思議なことに、起床後に全く胃もたれしない。結構なカロリーを夜中に摂取しているのに。さすがエレンタール。消化を必要としないからだろう。

 本日の昼食から七部粥になった。徐々に固形の米食になってきた。低残渣・低脂肪食なので、おかずはこの程度が限界かもしれない。それでも絶食後の今では、十分に美味しい。ただ、3食完食しているので、エレンタールも入れるとカロリーオーバーになるのではないかと、少々不安だ。

 自宅から筋トレ用にゴム紐を持って来た。胸筋と背筋を鍛えてみよう。この動きなら腹部に圧がかからず、創部に響かない。早朝には院内の散歩も開始した。この体調なら外来くらいはこなせそうだ。やっと退院と、その後の生活が見えてきた。

 クローン病の診断がついたのが今年の6月だったから、約5か月経過したことになる。これまでの治療をまとめておく。初期治療としてステロイドを用いたが、寛解導入できず。絶食で寛解導入し、小腸の狭窄部を切除した。今後ヒュミラとエレンタールの2本柱で治療することになる。これでいつまで寛解が維持できるだろうか。現在の一番の不安は、今後仕事が通常通りにできるかどうかだ。


2013/11/08

回復

 術後8日目。文字通り日毎に回復してきている。創部の痛みも体調も。昨日までできなかったこと、寝返りや起き上がり、歩行などが、今日はできるようになってきている。こうなってくると「明日はどこまでできるようになるだろうか」と思えてくる。一歩離れてみれば人生のどん底に近いのだが(多分)、それでも小さな幸せを感じる毎日だ。

 今日はベッドの頭を起こさなくても起きられた。腹部の術後の痛みもかなり少なくなり、トイレまでの往復が簡単になった。一昨日まではそれこそ気合いを入れてトイレまで行っていたのに。昨日から三分がゆが開始となり、今日で点滴も終了した。最後の一本の点滴は感慨深いものがあった。夜間はエレンタール4パックを経鼻胃管で注入する予定。そのため日中は何の管も入っていない状態であった。本当に幸せな気分でシャワーを浴びることができた。

 午前中には栄養士さんから妻と一緒に栄養指導を受けた。かなり勉強されているようで、患者会での情報なども教えてもらった。私の職業柄のためかもしれないが、これまで食事についてこれほど詳細に教えてもらえていなかった。確かにほとんどが知っている知識ではあったが、それを家族と共に聞くということはまた違った意味があると思う。妻もしきりに「聞いて良かった」と言っていた。子供達とは別の食事を私のために作る必要があるのかと考えていたようだ。

 食事制限のある病気は本当に辛い。それは本人だけではなく、家族にも強く影響するからだ。食事は分化の大きな一面を担う。楽しい食事は人間関係の潤滑油であろうし、楽しい旅行は食事抜きには考えられない。今後、いろいろなものを犠牲にしなければならないのだろう。しかしクローン病という窓から、また違った面白い景色が見られるかも知れない。自分の置かれた環境でベストを尽くす。それが全て。


2013/11/07

絶食後の病院食

 今日の昼食からやっとご飯が開始になった。入院してからの1か月間の絶食は長かった。特に最初の1−2週間はどうにもならないほどの空腹感だった。この期間に御世話になったのは、沖縄黒飴とロッテグリーンガムの2強。混ぜ物の入った飴やキシリトール配合のガムは避けた。ちょび反則物として、黒角砂糖と森永ミルクキャラメル。途中に一度だけオニオンコンソメスープを飲んだが(かなり幸福感があったが)、下痢をしたので止めた。

 やっと食べた三分がゆの低残渣食。それでも御飯粒の美味しいこと。今までにも病院当直時に病院食を試食していたけど、美味しいかどうかなんて考えたことはなかった。美味しいものとして考える対象ではなかった。いや、美味しいよ病院食。この一食のカロリーは大したことはないだろうけど、これを点滴で補うのは大変だろうよ。そしてほうじ茶。これは絶食時に飲むものではなくて、食後に「ふうー」って言いながら飲むものだな。

 日中に飲み物も飲めるようになり、こうやって食事も開始になった。1週間もしないうちに常食(とはいえ低脂質・低残渣食)まで昇進するらしい。点滴が不要になるのも秒読みで、日中はかなり自由になる。エレンタールは今日から2パックとなり、夜間に経鼻で行うことになった。

 こうなると退院が見えてきた感じ。外は大雨で雷が鳴っているが、心は軽やか。にわかにコンピュータを立ち上げ、久しぶりにリアルな感覚を持って予定表やTo-Doリストを眺めてみる。退院後はいつから復職しようか。食事は何を食べてやろうか。エレンタールの量とスピードはどうしようか。やっとエンジンがかかってきた感じがする。


2013/11/06

術後6日目

10月31日に手術を受けた。硬膜外麻酔プラス全身麻酔。小腸(回腸)と回盲部を50cm程度切除した。小腸壁が穿孔して大網側に膿瘍を形成していた部位もわかったらしい。これで現在の所、狭窄部位はなくなったわけだ。手術は極めて順調に経過したようで、2時間ちょいで終了した。手術に関わって下さった人々に感謝。

術直後は硬膜外麻酔のためか、腹部の痛みはほとんど感じなかった。むしろ両下肢から腹部に強いしびれ感というか、感覚の低下があった。これは硬膜外麻酔のためだろう。硬膜外麻酔はゆっくりと自動で持続注入されるようになっており、薬剤の袋の量からすると術後3日間ほどは注入が可能なようだ。この硬膜外麻酔には本当に助けられたと思う。一番痛みが強い時期を少し緩和できるからだ。

手術翌日の午後には何とか廊下まで歩いて往復してみた。術後2日目にはトイレまで数回往復。3日目にはフォーレを抜去し、硬膜外麻酔も終了。動きとしては、腹筋を使う動作が辛い。例えばベッドから起き上がるような動作だ。歩いてしまえば、少しは歩ける。でも食堂の方まで行くと、腹部の中に痛みを感じる。

お陰様で日毎に着実に回復しているようだ。一日の中でも朝と夕とでは、動きが良くなっているのがわかる。昨日からエレンタールの経鼻注入が開始された。胃管はやはり鼻の奥に違和感をもたらすが、文句は言っていられない。とにかく栄養をつけて、早く退院することが目標だ。昨晩は点滴の入替のために留置針も抜去。鼻の管も無し。管が身体についていない久しぶりの夜となって、安眠できた。管がついていないということが、これほど大きな事なのか、と実感した。

2013/10/30

手術前日

 入院より絶食のまま4週間経過。いよいよ明日が手術。狭窄プラス穿孔した小腸の切除予定だ。悪くなった部分だから仕方ないのだけれど、自分の身体の一部が文字通り削がれていくようで切ない。全身麻酔下での手術は初めて受ける。同時に硬膜外麻酔も行うようだ。これも当然初めての経験だ。

 どの医師が麻酔をかけてくれるのか、だれが実際に手術をするのか、少々気になるところはある。それが正直な気持ちだ。だが自分も患者さんや先輩に教えてもらってここまでやってきた身の上であるし、好き嫌いは言っていられない。もちろん手術だってそうだ。担当医は最終的な責任者であって、ところどころ、あるいはほとんどが若手医師が手術する可能性もあるだろう。それも結構。お役に立てれば幸いだ。

 だがこの気持ちは医療者だからかもしれない。患者さんからみれば、いつでも最高の治療を受けたいという気持ちがあるのは間違いない。しかし現実的にそれはなかなか難しい。でも医療者には最高の治療を行う心意気が要求されると思う。これも言葉で書くほど簡単ではない。最高とは何か。誰にとって何が最高か。それは万人共通ではないはず。

 医療というのは当然人間が対象であり、純粋な科学とは異なる。常に最高の医療を提供する、少なくともその心意気を維持することは医療者の義務だろう。一方で患者さんも協力しなければならない部分もある。その中で様々なドラマが生み出されていくのが医療だと思う。患者として手術の準備は整った。後は淡々と手術を待つのみ。


紹介状

入院中に時間があったので、自分用の紹介状を準備してみた。いつか主治医に英文の紹介状をお願いする日もくるだろうから。海外旅行時には、万が一に病院にかかることもあるかもしれないし、飛行機に乗るときにもあった方が無難だと思う。

(I am going to receive an operation the day after tomorrow. This is a letter of introduction for myself. I think I need this type of letter for the trip to foreign countries someday.)

Medical History for Mr. U

(Date)
To Whom It May Concern,

Mr. U is 44 years old. He has been followed at our hospital for the last 6 months because of Crohn's disease, which is a type of inflammatory bowel disease.
He has suffered from anaphylaxis, a serious allergic reaction, after eating melon during the course of the illness. Therefore, he carries an epinephrine autoinjector kit named 'Epipen' with him.
He received an operation (small intestinal resection) on October 31, 2013. After the operation, he received enteral feeding (Elental, 4 packs/day) and self-injections of adalimumab (Humira).
He has maintained a good condition since the operation.

His medications are as follows:
Rp.
1) Pentasa (500mg) 6T 2xM,A
2) Bio-three 3T 3xn

If Mr. U seeks medical care from your hospital, please take good care of him.
If you have any questions concerning Mr. U, please contact me at the email address shown below.

E-mail address:

Yours faithfully,

(signature)

(Printed Name)

2013/10/29

手術の説明

 本日夕方に外科医より手術についての説明を受けた。回盲部から70-80cmの小腸に狭窄があり、同部に膿瘍もあったらしい。私の腹腔内膿瘍は、腸管が穿孔したものらしい。幸いにして腹膜炎にはならず、緊急手術を受けなくて済んだ。明後日の手術は、回盲部を含めて、この小腸の狭窄部までを切除するとの事であった。

 医師になって私も多くの患者さんに手術の説明を行ってきた。手術を受ける立場として初めて説明を聞いた。様々な事が本当に勉強になる。患者さんがどこが気になるのか、少しわかってきたような気がする。それは説明の内容だけでなく、説明を受ける部屋の雰囲気や、医師の表情及び動作、看護婦さんの挙動なども含む。今回の説明で気になる点は全くなかった。むしろ早く手術が終わって欲しいという思いが強い。

 一緒に説明を聞いてくれた妻には感謝している。医療者側からみれば当然のような行為だが、家庭のことを全てこなした上でこうして来てくれているのだから、大変だろうと思う。また手術に必要な物品も売店で揃えてくれた。もちろん自分でもできるだろうけど、こうやってやってくれる人がいると心強い。特に妻は元看護婦なので、手術に必要なものと不要な物を、ばっさばっさと分類していく。

 手術を受けることはやはり不安だ。縫合不全にならないだろうか。ステロイドの内服をしていたので感染症になるのではないだろうか、等々。でも術後に家族がいてくれるという安心感は、この不安を和らげてくれる。物理的にも精神的にも本当に助かる。重い荷物を背負うのは、一人より二人が良いのだろう。いつか相手の荷物も背負えるように、まずは病気を何とかしましょう。


2013/10/28

経管栄養の練習開始

 まだ術前だけれど時間もたっぷりあったので、主治医にお願いして経管栄養の練習を始めることにした。もちろん自分も医師として患者さんによく入れたことはあったので、やり方が心配だったわけではない。だが受け持ちの看護師さんにはそれが良く伝わらなかったみたいで、チューブの入れ方や機械の操作だけ教えてくれて終わろうとしていた。

 まあ通常はそうなのでしょう。でも私が知りたかったのは、退院してから必要な物品をチェックしたかったということと、退院してからの生活をシミュレーションしてみたかったからなのです。患者さん一人一人がその生活パターンによって必要な情報が異なるのだということが、この立場になってよくわかりました。クローン病は若年者で仕事をしている人も多いから、長期臥床している高齢者の経管栄養とは必要な情報が当然大きく異なるのです。

 必要物品で一番大きな物は、点滴スタンドのようでした。重い経腸栄養剤をぶら下げるので、丈夫な物が必要だと考えました。ネットでいろいろ検索していると、折りたたみ式の点滴スタンドを発見。これなら長期旅行や出張にも持って行けそう。ひょっとしたらランタンをつり下げることもできるかも。値段も比較的安かったので、すぐに購入。便利な時代で良かった。

 試しに経鼻チューブを自分で入れてみた。チューブは細いし、先端に重りがついているし、昔に比べてずいぶん改良されているようだ。嚥下反射が強いのでちょっと心配だったが、大した苦労もなく入れることができた。但し、頭を動かすと咽頭の違和感が強く感じる。これで本当に寝られるのだろうか。そこはかなり心配だ。慣れの問題だとは思うけど。


2013/10/27

遺伝性疾患

 今日は10月の最後の日曜。秋も終わろうとしている。紅葉はそろそろピークだろうか。今年は秋を逃してしまった。毎年10月の終わり頃に子供達と祖父母、それから姉夫婦と共に、会津の裏磐梯のコテージに宿泊することにしていた。家族全員集合だ。今年はクローン病を発症してから予約したのだが、今回の手術の為にあえなくキャンセルとなった。

 日曜日の静かな病棟を満喫してごろごろしていたところ、姉夫婦が見舞いに来てくれた。自動車で片道5時間だそうだ。絶食中であることを伝えたところ、ミネラルウォーターをたくさん持って来てくれた。ちょっと不思議なくらい、たくさん。姉に会うのは去年の秋のコテージ宿泊以来だ。

 実は姉もクローン病。そう、姉弟でクローン病。自分が診断受けたときには、呪われているのかと思った。確かにクローン病について調べると、家族性発症の報告があるようだ。でも、確率的には相当に低いですよね、神様?専門外なので詳細はわかりませんが、遺伝子的要素プラス環境因子(幼い頃に食べた食事?)が原因なのでしょうか。

 現実を恨んでみても仕方ないので、ここは受け入れるしかない。でも極端に身近に同病者がいてくれるので、情報は入りやすい。クローン病の大先輩だ。久々に会った姉は結構体重アップしていて、栄養不足のために死ぬような病気ではないことを身をもって教えてくれた。それ以外にも、不必要に不安がることはないことが聞けたので、ほっとしている。


2013/10/26

漠然とした不安

 今日は土曜日。休日ののんびりとした病棟の雰囲気が好きだ。午後から点滴をロックしてもらって外出へ。久々に帰宅してみた。まずは犬とじゃれ合う。この為に帰ったとも言える。昨日は長男の誕生日であったので、本日誕生祝いをした。でも絶食中なので、私と犬君はケーキを眺めるだけ。ケーキを食べる姿を眺めながら、漠然とした不安が大きくなる。

 クローン病は難治性疾患。生涯にわたって再燃の可能性と付き合う病気。自分のどこかに時限爆弾がしかけられたような恐怖というか、悲しみがある。何より気になるのは、家族を守らなければいけないことだ。再燃を繰り返したら、仕事ができなくなるかもしれない。患者さんや職場にも迷惑をかけてしまう。これらは自分の努力だけで乗り越えられるのだろうか。

 不安を分解してみると、楽になることがある。私の一番の心配事は再燃。それには薬剤による治療と、栄養剤による治療、そして食事制限の要素が考えられる。薬剤による治療は主治医と相談するが、基本的には主治医に任せる方針だ。そうすると自分にできる努力は栄養剤をきちんと飲むことと、食事制限をきっちりすることになる。

 不安ばかりかかえていても、腸によくない。仕事も進まないし、大きな無駄になる。今自分が為すべき事を為そう。まずは治療をきちんと受けること。その後の経管栄養と食事制限をしっかり守ること。それ以外は悩んでいてもマイナスになるだけだ。問題は結構単純。これをやって、もし駄目だったら、仕方ないでしょう。その時は、その時です。

2013/10/24

空腹感

 入院して3週間が過ぎた。入院直後から絶食であったため、これで3週間何も食べていないことになる。先週からジュースが可となったので、少し自由が広がった感じがする。贅沢を言って個室に入院しているし、身体は元気なので、あまり不自由を感じない。今の生活で最も辛いのは、空腹感だ。

 空腹感のピークは絶食後1-2週目であったろうか。わざとテレビの料理番組を見たりしていたが、あれはやめておけばよかった。ちっとも空腹感の軽減には繋がらなかった。一番良いのは飴だろうか。様々な飴を試してみたが、混ぜ物の少ない黒糖の飴が自分には一番合っているようだ。舐めた後に胸焼けがしない。空腹感のあまり多量に摂取してしまいそうで、飴と飴の間に必ずガムを噛むようにしている。食事をしていないので、咀しゃく筋の萎縮予防にも良いのではないだろか。

 当然時間はたっぷりあるので、他の仲間はどうやってしのいでいるだろうかと気になってしまう。ついついネットで空腹時のしのぎ方を検索したりしている。当たり前だけど効果的な方法はなさそうだ。でも「みんな辛いんだ」ということはわかって、なんだかほっとしたりする。ネット上ではかなりの数の患者さんたちによるコミュニティがありそうだ。

 自分も医療者だから、病気についての知識は入手できる。教科書だって、論文だって、書籍だって、お茶の子さいさい。でもこのような知識以外に、生の患者さん達の声も聞きたいと思う。この手の情報はよく吟味が必要で、簡単に鵜呑みにはできない。でも多くは新米の患者さんの心の支えになるような助言だ。もっと簡単に患者さんの励みになるような「声」が聞けると良いのだが。

2013/10/23

教授回診

 絶食と点滴で3週間。おかげで体調はすこぶる良好。早朝に院内をぐるぐる歩き回って、4000歩。そう、万歩計を持参している。腹痛は全く無い。熱もない。点滴さえしていなければ、普通の人、に見えると思う。それがこの病気の辛いところでもある。他人にわかってもらえにくいし、自分でも気付きにくいから。
 
 今日は午前中に教授回診。いやあ、懐かしい。以前は自分もあちら側にいた。あの行列をこちら側から眺めるのも楽しいものだ。今日は治療後の食事についての意見が、教授と主治医とで違っていた。まあそんなこともありますよ。人間ですから。むしろ全て一致していたら気持ち悪い。それは芝居かと疑いたくなる。

 でもそう思えるのは、以前にむこう側にいたからかもしれない。相手の立場を理解するのはとても難しいことだ。患者さんの立場からしたら、主治医と教授の意見が異なるのは、きっと困るだろうな。どちらが正しいとか、どちらが間違っているとか、多くの場合はそういう問題ではない。医療に携わる者として、意見が異なるだけだ。そして医療というのは、科学的な側面がありながら、人によって判断が異なることが、非常に人間味があってよい。
 
 私は日常の様々な場面で不満を持つ。1時間に1回か、いや数分に1回かもしれない。でもきっとそれらは全て私の立場からしか事象を見ていないからなのだろう。少しだけでも立ち位置を変えることができれば、景色も変わるし、感じ方も異なるのだろうな。自分の病気のためにも、ポジティブになろうと思う。少し心の足を使って、景色を変えてみよう。

2013/10/22

外科受診

 本日は初めての外科受診。消化器内科から紹介してもらい、外科へ受診となった。外科の先生も時間に余裕を持って来てくださったようだ。丁寧な話し方からそれがわかる。自分でもよくわかるが、急いでいるときの話し方は少し雑になるし、相手にも伝わってしまうものだ。こうやって入院すると患者さん目線がよくわかる。運命がくれた勉強の機会なのかもしれない。

 でも残念なことに、小腸の切除範囲は80cm程になるとの事。内科の先生の話しでは40cm程度とのことであったので、ちょっと落ち込んだ。この分野の専門家ではないので、この40cmの違いがどの程度重要なのか、そうでないのか、そのニュアンスがよくわからない。しかしじたばたしても始まらない。術後に縫合不全が生じても嫌だし、早期に再発を来すのも困る。ここは言われたとおりに手術を受ける以外には方法はあるまい。

 私も医師なので、当然クローン病という病気に関しての情報は可能な範囲で収集している。それでも細かいところは良く分からないし、逆に全体像もつかみがたい。なんだかとらえどころのない不思議な病気だ。難病だけど、そう簡単には死なないし、この点滴さえなければ普通の人と変わらない。でも普通の生活を送ることが難しい患者さんもたくさんいるし、元気な生活を送っている患者さんも必ず心に不安を抱えているはず。

 現在は手術日程の決定を待つ、まな板の上の鯉。こうなったら、一刻も早く手術をして欲しい気持ちになる。絶食も3週間近くになり、空腹感も強い。一人でガムを噛んだり、飴をなめたりしながら、病室で悶々とした日々を過ごす。病院での仕事のことや学会発表のこと、家庭のことなどがいろいろ気になるが、この状況ではどうにもならない。イライラは病状によくないと自分に言い聞かせ、ベッドの上で座禅を組んでみた。

2013/10/21

病室で見るテレビ番組

 入院してもうすぐ3週間。全ての検査が終了したところで、ジュースのみ許可がでた。いやはやジュースのなんと美味しいこと。でもお腹に気を遣って、コーヒー飲料や甘いジュースは避けている。主に野菜ジュースを朝晩に200cc程度飲むことにした。幸い、ジュースくらいでは腹痛は生じていない。

 入院中は時間を持て余す。普段はほとんど見ることのないテレビを見てみる。この状況で見てみて初めて気付いたのだが、食べ物に関する内容が非常に多い。番組のなかでも、コマーシャルでも。食べ物が紹介される度に苦しくなるほどの空腹感が襲ってくる。テレビ番組って、こんなにも食べ物を扱っていたんだ...。

 番組をみていても、台風の被害や殺人事件などのショッキングなニュースが多い。何度も同じ事ばかり繰り返しているのだが、不思議とぼおっとしながら見てしまう。少し考えれば、これらを知らなくても私の人生が変わることはないのは明白だし、今の病状を考慮するとショッキングなニュースは控えるべきかも、という結論に達した。敢えてニュースは見ないことにした。

 旅行番組は楽しくて良い。薄暗い病室の中でも元気をもらえるし、いつかはこんな所にも行ってみたい、そう思う。しかし必ず現地の食材の紹介がある。この場面が辛い。あー食べたい。でも元気になっても、これは食べられないのだろうなと思うと、すごく悲しい。

 こんなに長い入院になるのなら、DVDでも借りてきておけば良かった。でも、どうだろう。病院の中に、DVDレンタル屋さんがあったら?必要な患者さんは大勢いる。需要は間違いなくありそうだ。注文が病室のテレビからできて、配送・回収も病室まで来てくれるとしたら?料金設定はどうしようか。ひょっとして良いビジネスになるのでは?いや、何考えてるのだろう、俺。

2013/10/20

発病まで

 思えば、子供の頃から胃腸は弱かった。試験前にはよく下痢をしたりしたものだ。高校生の夏休みには難治性の下痢になり、毎日整腸剤を飲んでいたのを思い出す。私の実家は薬局だったので、整腸剤は豊富にあった。暑いトイレの中で大汗をかきながら、「何か悪いものでも食べたのだろうか」と悩んでいた。その時が本当の発症かどうかはわからないが、その後も頻回な軟便に苦しめられていた。

 自分で勝手に過敏性大腸炎の診断をつけ、過敏性大腸炎用の内服薬を試してみたこともあった。当然全く効果は無かった。今は本当に反省している。食事では、特に油物を食べた後に具合が悪くなり、胸焼けや嘔吐も生じるようになった。自分では歳のせいだと思っていた。

 今年のゴールデンウィーク頃には身体が異常に重く感じた。病院の階段を登るのに息が切れ、足が上がらない。微熱もあった。採血をしたところ、貧血と低タンパク血症。炎症反応も陽性。原因がわからないまま、数週間後に再度採血の検査を行った。貧血と低タンパク血症が悪化している。ダイエットしているわけでもないのに、体重は2kg減少した。頭の中に「癌」の文字がよぎった。

 この頃になってやっと消化器内科の同僚に相談してみた。早速大腸内視鏡を勧められた。本当はかなり嫌だったけど、体調は明らかに悪化しており、選択肢は無い。おそるおそる検査を受けて、クローン病と診断された。癌ではないとわかった安心感がわき起こったが、また別の大きな不安感が押し寄せた。

 今後の生活はどうなる?仕事はできるのだろうか?収入は確保できるか?家族はどうなる?保険は十分入っていただろうか?食事はできるのか?
 目の前が真っ暗になった。ステロイドのせいなのか不安のせいなのかわからないが、まともに寝られない。すぐに目が覚めては、「夢か?」と思う毎日が続いた。

2013/10/19

手術宣告

 昨日主治医から病状説明があった。小腸に高度狭窄病変があり、切除が必要であると言われた。これはきつい。先日受けた小腸造影は肉体的にきつかったが、手術宣告は精神的にきつい。

 クローン病と診断されたのは2013年6月。既に40歳代前半。自分では、症状はクローン病のようだが、年齢的には可能性は少ないのではないかと思っていた。しかし大腸内視鏡の結果はクローン病との診断。まずここで1回目の精神的挫折。

 夏の間はステロイドを内服した。真夏には体調は回復し、遠出できるようになった。おかげで夏休みは妻と海沿いをドライブした。浜焼きの白身魚の美味しかったこと...。

 しかしステロイドの減量と共に、9月下旬には体調悪化。食事をすると強い腹痛を生じるようになった。空腹感はあるのに、食事をすると腹痛がひどいものだから、食事をしたいのか、したくないのか、自分でもわからなくなっていた。

 そして10月。腹部CTで腹腔内膿瘍の診断。あえなく入院となり、絶食の上、抗生剤プラス中心静脈栄養の点滴を2週間受けた。体調は回復したものの、小腸造影の結果、手術しか選択肢が無い模様。これで2回目の精神的挫折。
 
 これまで医師として、同様のことを患者さん達に行ってきた。そして彼らの気持ちも理解していたと思っていた。しかし自分のことになると、頭の中では手術の必要性を理解していても、心の奥底に明らかに恐怖感がある。これはどこから来る恐怖感なのだろう。何か自分の身体が壊れていくというか、削ぎ落とされていくような苦しみだ。

 絶食中で体調は良いので、時間はたっぷりある。前向きに考えようと思っても、なかなか難しいもので、次々と様々な不安が浮かんでくる。病院の窓から外の景色を眺めてみる。今年は秋を感じる余裕もなく、冬になりそうだ。